知的障害の初診日
障害年金の申請では「初診日」が極めて重要な意味を持ちます。
初診日によって、
- 障害基礎年金か、障害厚生年金か
- 納付要件を満たすか
- 20歳前傷病として扱われるか
が決まるからです。
とくに 知的障がい(精神遅滞) の場合は、
他の精神疾患と異なり、初診日が「出生日」であると制度上明確に定められていますが、誤解も多く見られます。
「就学前に一度受診したが、それが初診日?」
「乳幼児健診は初診日になる?」
「発達障害の初診日と何が違う?」
こうした疑問は非常に多く、誤解されたまま相談に来られる方も少なくありません。
この記事では、障害年金における “知的障がいの初診日は出生日である” という原則と、その背景にある制度的根拠、発達障害との違い、例外規定を専門的に整理して解説します。
※ここでいう「出生日」は先天性(生まれつき)の知的障害が前提です。
後天的な原因による知的障害は、原因となった傷病の初診日が用いられます。
制度上の基本ルールと例外
——「初めて医師の診療を受けた日」が原則
障害認定基準では、初診日を以下のように定義しています。
障害の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日
つまり本来は
医療機関での初回受診日 が初診日です。
間違いやすいものとしては、次のようなものがあります。
初診日として間違いやすいもの
① 転院があった場合は?
→ “一番最初に受診した医療機関の受診日” が初診日になります。
② 最初の診断名が違っていても、同一傷病と判断される場合
→ その最初の受診日が対象傷病の初診日になります。
例えば…
- 最初は「適応障害」 後に「自閉症スペクトラム」→「適応障害」 で初めて受診した日
- 最初は「うつ病」 後に「双極性障害」→「うつ病」で初めて受診した日
③ 原因と相当因果関係のある別の病気が先にある場合
→ 最初の傷病の初診日が対象障害の初診日になる。
例えば…
- 最初は「糖尿病」 で、病気の影響で 「糖尿病性腎症」→「糖尿病」で初めて受診した日
- 最初は「脳梗塞」 で、病気の影響で 「認知機能障害」→「脳梗塞」で初めて受診した日
ここまでが 一般の初診日ルール です。しかし、知的障害(精神遅滞)には「特別な例外」が存在します。
知的障害の初診日はいつ?制度上の基本ルールと例外
障害認定基準の中には、次のような規定があります。
先天性の知的障害(精神遅滞)の初診日は「出生日」とする。
知的障がいは
- 先天性の脳機能障害
- 認知・学習・適応能力の遅れが出生時点から存在する
という特性があり、発症の時期を「医師の診療日」で区切ることが困難です。
そのため障害年金制度は、
知的障がい=出生日から症状が存在するという前提で、
初診日を“出生日”とみなす特例扱いを採用しています。
なぜ出生日が初診日なのか(制度的理由)
1. 知的障害は生まれつき存在する障害
知的障害は後天的な障害(事故・病気等)と異なり、
脳の発達そのものが影響しているため、原則出生時から障害が存在します。
2. 受診のタイミングが初診日では不公平が生じる
家庭環境・病院へのアクセス・保育所からの指摘の有無などにより
「いつ病院に行くか」は大きくばらつきます。
制度として公平性を確保するため「出生日」が採用されています。
3. 「医療行為の有無」で初診日が左右されることを避けるため
知的障害は乳幼児期に必ず医師の診療を受けるわけではありません。
- 3歳まで様子見
- 就学前に気づかれる
- 就学相談から専門医につながる
このような状況で「病院に行った日」を初診日とすると、
本来20歳前障害であるにもかかわらず
厚生年金期間の初診日になるなど矛盾が生じます。
発達障害(ASD/ADHDなど)とは異なる初診日の考え方
ここで 知的障害としばしば混同される発達障害 との違いを解説します
発達障害(自閉スペクトラム症・ADHD)
→ 初めて医師の診療を受けた日が初診日
発達障害は「生まれつきの特性」ではありますが、
知的障害とは異なり、出生日が初診日とは扱われません。
- 発達外来の受診日
- 小児科で特性を指摘された日
- 精神科・心療内科を受診した日
など、医師の診療を初めて受けた日が正式な初診日 です。
もちろん、社会人になって就職した後に、初めて病院を受診し、そのときに厚生年金に加入していれば、その初診日は「障害厚生年金」の対象となる可能性があります。
つまり、「厚生年金に入っているときに初めて病気やけがで病院に行った場合は、障害厚生年金が受けられる可能性がある」ということです。
よくある誤解
- 「発達障害も生まれつきだから出生日が初診日?」
→ 誤り。必ず医師の診療日が初診日。 - 「知的障害と発達障害どちらもある場合は?」
→ 主たる傷病(認定の中心)がどちらかで変わる。
知的障害の初診日に関する誤解と注意点
ここでは特に相談が多い誤解を整理します。
誤解①:乳幼児健診の「指摘」が初診日になる?
→ ならない。
健診は医療行為ではなく、原則として初診日には該当しません。先天性の知的障がいの初診日は出生日です。
誤解②:保健センターでの相談も初診日?
→ ならない。
保健師の相談は医師ではないため初診日には該当しません。
誤解③:就学前に一度だけ病院を受診した → その日が初診日?
→ ならない。知的障がいの場合は、“出生日が初診日” となります。
誤解④:就職後に診断された=厚生年金で請求できる?
→ 知的障害の場合は初診日が出生日なのでNG
→ 原則「20歳前傷病扱い」となり、厚生年金での請求はできません。
ここを誤解しているケースが最も多いです。ただし、後天的な知的障がいの場合は、原因となった傷病で受診した日が初診日となります。
知的障がいの初診日を証明する方法
知的障害は出生日が初診日であるため、
初診日の証明である”受診状況等証明書”は不要 です。
まとめ:知的障害の初診日は「例外的に」出生日
最後に要点を整理します。
● 初診日の基本:医師の診療を初めて受けた日
● 一般的な例外が3つ(転院・診断名違い・相当因果関係)
● 先天性の知的障害は初診日の特例があります
→ 出生日を初診日として取り扱う
● 発達障害の初診日は出生日ではない
→ 原則通り、医師の診療を
● 出生日が初診日のため、初診日の証明書類は不要
障害年金の申請は、初診日の取り扱いや必要書類の準備など、細かなルールの理解が必要です。
とくに「知的障害」と「発達障害」の違いや制度の例外は、誤解されやすいポイントです。
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